5分以上の時間が経っても、幼虫君は、木に掴まったまま、じっとして、動きませんでした。
やっぱり、僕の頭に付けていたライトの光が眩しくて、警戒してたんやないかと思います。
僕が、しばらく、その場を離れて、完全に光が当たらない状態を2~3分程こしらえると、ようやく、背中が割れて、変身が始まりました。
「お~!始まったぁぁぁっっっ!!!」
僕は、慌てて、椅子を置いた場所まで戻り、再び、腰を据えて、じっくりと、幼虫君の観察を始めました。なるべく、光を直接当てないように注意しながら、眺めていました。
背中が割れて、頭が出てきました!
完全に、逆さまになってしまいました。
何をしてるのかは分かりませんが、この状態の時間は、かなり長かったと思います。5分以上、この状態やったような気がします。
もし、この状態で、抜け殻の手足が、掴まっている木から離れて、下に落ちてしもたら、もう、成虫になるのはアウトなんでしょうね。僕は、冷や冷やしながら見ていましたが、冷静に考えて、抜け殻のホールド力というのは、物凄いですよね。よう、これだけの荷が掛かって、外れんもんです・・・・・。
このセミの変身を目撃する少し前の時期に、自宅の花壇の花に水やりをしていた時に、たまたま、セミの幼虫が変身中やった時がありました。
「うわぁ!何か、おるっ!!!!」
と、ビックリしてしもた僕は、思わず、手元がぶれて、誤って、変身中の幼虫に水を掛けてしまいました。
その時の状態というのが、上の写真の、”完全に逆さま状態”の一つ前の写真の状態でした。
僕が水を掛けてしもた後、セミは、全く動かなくなってしまいましたので、
「しもたぁぁぁ~~~~!殺してしもたか!?」
僕は、思いました。
たまに、変身途中で、殻から、体を少し出した状態で死んでいる幼虫を見かける事がありますので、ひょっとしたら、変身中のセミは、途中で物が触れてしまうと、死んでしまうんやないかと思いました。
せやけど、しばらくすると、ピクピクと足が動き始めました。
「お~!生きとったんやぁ!良かった~~~~っっっ!!!!」
僕は、この時、水を浴びてしまったセミが、敵が来たと思って、死んだフリをしてたんやないかと思いました。
それで、長い時間、全く動かずにいて、「もう、敵はおらんやろう!」と判断してから、再び、動き出したんやないかと思っていました。
せやけど、どうやら、変身中のセミというのは、逆さまになって、お尻を出すまでに、しばらく、完全に静止する時間があるみたいです。
人間で言う、”へその緒”みたいに、殻と体とが繋がっている部分が外れるまで、結構、時間が掛かるんかも知れません。
逆さまの宙釣りのような状態から、ゆ~~~~っくりと、上向きに復活しました!
ここから、グングンと羽が伸び始めます。
変身が完了しました!
「良かったぁ~!五体満足や!」
僕は、思いました。
僕がトングで掴んだ足を、最初、幼虫君は、随分、気にして、しばらく、痛そうに動かしていましたので、成虫になった後に、障害が出たりせぇへんか、ちょっと心配でした。
殺虫剤の溝の上を歩いていた影響や、殺虫剤の上にひっくり返してしもた影響もなさそうで、安心しました。
最初、溝の上を歩いている幼虫君を見かけた時の時刻は、20時半頃でした。ほんでもって、変身が終わった時の時刻は、22時を回っていました。実に、1時間半もの時間、僕は、セミの変身する様を眺めていた事になります。
次の日に仕事が入っていた僕は、その日は、なるべく早く家に帰りたかったんですけど、殺虫剤の溝から助けてあげようとして、逆に、下手に、トングで触ってしもたが為に、幼虫君に障害が残ってしまった可能性もあって、それが心配で、ついつい、時を忘れて、眺め続けてしまいました。
幼虫君が、無事に成虫になれた事を確かめた僕は、ようやく帰路に着く事にしました。
「明日、元気に、大空を飛び回りや!鳥なんかに食われたら、あかんで。長生きするんやで。存分に、この世を楽しみぃや!」
セミの変身は、いつ見ても、神秘的で、心が洗われます。
小学生やった子供の頃、よく幼虫を捕まえて、家の網戸やカーテンに掴まらせて、照明を消して、ワクワクしながら眺めていた時の事を思い出します。童心が蘇ってきますね。
また、来年も見れたらええなぁ・・・・・・・。
~完~